介護の現場へのロボット導入と課題

 

某社ロボット開発担当者  ken

 

 日本は20年後の間に高齢者が人口全体の4割に達する。また、若者の数も減少する方向で「高齢化社会」から近年は「高齢社会」に移行している。高齢者が高齢者を介護する必要がある環境の中で介護へのロボット工学技術の導入が重要となっている。ただ、現状のロボット工学技術での開発だけでは要介護者や介護者が必要とするロボットの市場導入は非常に難しい。

 

 全ての要介護者に適応可能なロボットの開発は、健常者と比較して身体の動作が不確定な要素が多く、その不確定要素に対して全員が使用可能なロボットとを作る為にはその不確定な要素をいかに理解した上で安定した制御を行うといったいわゆる広いロバスト性が必要となる。現状の介護現場へのロボットの導入は各要介護者の動作に合った専用設計のロボットを作っていた為、コストが高く広い市場が望めない状況にある。

 

 その不確定な要素とはいったいどういったものになるのか?

ロボットが人を「持ち上げる」といった一つの動作を考える。健常者の場合、持ち上げられる人自身からロボットに抱きつく、乗る等の安定した状態となり、その状態から人を引き上げればよい。また、持ち上げられた上体で不安定な状態となった場合も自らの力で楽な状態、つまり安定した状態に体勢を変化させる。

 

 ただ、要介護者の場合は人によって肩があがらないや腰が曲がっている等で自らで抱きつく動作、乗るという動作までの状態以降が困難な方もいる。また、それらの方にすべて適応可能なように包み込むように人の把持をロボットが行ううえでも保持部分の筋肉が不足していることで皮膚のたるみがありすべりがあり身体の固定が困難となる方もいる。これらのように身体の状態は要介護者それぞれで大きく異なりこの部分がロボット制御する上で大きな不確定の要素となる。全ての人の不確定要素を解決するには要介護者それぞれの身体要素に合わせたオリジナルの制御や形状のロボットを作ればいいのだが、広い市場を考える上でコストの壁が大きく立ちはだかる。介護ロボット市場を拡大することを考えると、要介護者の身体的特徴の理解した上での広いロバスト性を持たせた安価なロボット開発が今後非常に重要と感じる。ただ逆に、広いロバスト性を持たすことで、介護者や病院からは別の声も聞かれる。ロボットの介護による要介護者の身体的な能力のさらなる低下である。

 

 「介護」とはあくまでも「足らない部分を補助する」こととの考えが医学・介護の分野にはある。全ての人に合わせたロボットによる介護は足らない部分の補助だけではなく、介護者が自分で可能なことまでも全て補助を行うことになり健康な部分の身体的能力の低下を引き起こす原因となり得る。

 

 kappacoolazy
 kenしゃんは今、某企業で介護ロボットの開発に携わっているんだにか?。

 ロボットといえば、asimoが有名だに。ほんとに階段を勝手に降りるんだにか?

 

 ken
 asimoを数年前実際にみたところ階段に認識マークを貼ってそれを認識して階段を昇降してました。顔の部分にあるカメラで認識していると思います。
 また、おそらく会社内での案内業務ロボットとかは大きくは頭の中にマップを持ってその上で動いていると思います。人や障害物はカメラで動きを確認するとかレーザセンサで認識するとかで実際にしています。

 

 人と違ってカメラやレーザセンサで認識が難しいものとして3D画像での認識は難しいとされています。障害物の奥行きや形状がはっきりとは認識難しいです。イベントやCMでasimoが階段降りて電車に乗り遅れるというシーンがありますがCMに合わせて作りこんだ動作だと思われます。私が知っている某社のロボットCMでは動いているように見えて実は人が押して運んでいたり、腕を上げ下げしていたり。また、ロボットに合わせて周りの人が演技をしていたりするものもあるようです(笑)

 

kappacoolazy
 そうなんだにか・・・笑。

 以前は人工知能の研究をされていたと聞いていたんだによ。「創発」について話したことがあったよね。

 

 ken
 創発から離れて8年近く経つので余り覚えてない部分もありますが。
 人、生命や知能の進化は実は単純に決まった進化のみを繰り返してはないということです。進化を行ううえで、突然変異や交叉等で急に思いもよらない能力を得て、その部分が環境に対して以前よりも適応していれば、その能力の進化をすることがある。これらは単純に決まった進化をしているわけではない為、予測も難しい。まるで神様のような存在があり進化を決められているかのようにも見えます。
 これを、人工知能も同様の考えが必要になり、ある問題に対して一番適切な解を探索する場合もちろん以前の解に比べて探索時間や効率がよくなればそちらを能力として手に入れてということを続けその解に収束していくが、実際にもっといい解が別にあったとしてもそちらには進化できない。そこで必要になるのが突然変異のようないきなりの能力の取得になる。

 んーー、難しいですね~。昔からこの部分うまく説明できないです。

 

 kappacoolazy

 僕は、部分部分の要素や能力が集まって全体が出来上がっているという考え方が、現実には否定されてしまうということ、あるいは、要素の働きは単純に見えるが全体としては要素の解明からでは説明出来ないある種高度な働きをしていること・・・と、単純に考えていただによ。「進化」とは言わず、僕は「展開」と言いたいんだけど(笑)、ここでいう「進化」というのは、突発的で予測不可能な創発現象によるものだと考えていいんだにね。

 

 ken

 そうですね。「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、ある一つの現象だけをみると説明できないことが、全く関係のないように見える要素の現象と関係があったりする。これも進化と呼べる気がします。前記の展開にも当てはまらない突発的で予測不可能な創発現象によるもの、なんの要素もないのに、いきなり人が桶を欲しくなって桶屋が儲かった。これも進化な気もします。

 

kappacoolazy

 今回書いて頂いたことでいうと、広いロバスト性を持たせたコストの低いロボット開発というのは現実的に可能なこととして開発に取り組んでいるんだにか。

 ken

 可能になるように模索しているところです。現状は様々な形状や制御のロボットを作って要介護者からの声や介護者からの声を次のロボット開発にフィードバックを繰り返して良いものを作っていこうとしているところです。共通な部分は共通、人によって代えないといけない部分は最小に。まずはこの部分を見つけるところからです。

 

 kappacoolazy

 神がかり的な創発現象がおきないと・・・笑 〆

 

(禁無断転載)

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